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退屈でない太閤堤

 <退屈なもの 宇治堤の歩行>。明治28(1895)年発行の本「京都土産」の「ものづくし」の項にこう記されている▼宇治堤とは、豊臣秀吉が造らせた太閤堤の一つである槙島堤を指す。単調な風景が続いたためか、京都を代表する退屈なものと皮肉られた▼槙島堤は伏見の豊後橋(現・観月橋)から宇治橋までの宇治川左岸に築かれた。巨椋池に注いでいた宇治川を伏見城下まで導くため、川筋を北へ延ばした。巨椋池を貫く小倉堤も造られ、これを大和街道として京都と奈良を最短で結んだ▼これらの大事業は左岸で行われたが、近年は右岸での発掘成果が目立つ。今月も川岸を守る「石出し」や「杭(くい)出し」の遺構が出土した、と宇治市が発表した。歴史公園として整備する動きもあり、注目されている▼槙島堤の跡を歩いてみた。残念ながら車の往来が激しい府道なので散策に向かない。一方、小倉堤の跡は近鉄向島駅から小倉駅まで、高低差を感じながら集落を縫う道をたどれる。「宇治の道 旅人と歩く」(市歴史資料館発行)に詳しい▼国学者本居宣長も京都留学を終えて伊勢松坂へ帰郷の道中<小倉堤をはるばるとわたりて->と、日記に書いた。旅人が見た景観の名残を探し、天下人・秀吉の戦略に思いを巡らせながら歩けば、退屈はしない。

[京都新聞 2017年02月27日掲載]

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