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伝統の製茶

 <山吹や宇治の焙炉(ほいろ)の匂ふ時>。松尾芭蕉も詠んだ宇治茶の加工は今がシーズン。摘んだ茶葉は酸化を止めるためにすぐ蒸して乾燥させる。焙炉師の手作業が機械に代わったとはいえ人の手は必要だ。荒茶に加工するまでが茶農家の仕事なので、この季節は収穫後も忙しい▼碾茶(てんちゃ)農家の山本晃一郎さん(65)宅を訪れた。宇治橋通り商店街にあり、製茶場と職住一体だ。ここに1925年製の碾茶炉「堀井式碾茶乾燥機」が備わる。レンガ積みの倉庫のような大掛かりな装置だ▼「ひいじいさんの代から動かして92年。修理しながら使っています」と山本さん。大正時代に宇治の堀井長次郎が考案し産地に広めた▼「碾茶製造上の革命」と茶史に名を残した装置が、今も現役なのには驚いた。文化庁や宇治市の職員、外国人観光客も視察や見学に訪れる▼山本さんは本(ほん)ず栽培一筋。よしずの上にわらを敷き、直射日光を遮って育てる伝統手法だ。「400年前からの方法で栽培し、90年超の装置で加工する。ストーリーを大事にしています」と胸を張る▼宇治では、茎と葉を静電気で選別したり、抹茶をつくる石臼を電動にしたりと革新を起こしながらも、伝統との調和を図ってきた。栽培や製茶法を大切に継承する茶業者の思いを感じながら味わう新茶は格別だ。

[京都新聞 2017年05月29日掲載]

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