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(5)「商人」の信条

企業支える「三方よし」
長岡産業の主力製品に育った光学フィルム用の巻き芯。「三方よし」の精神が開発につながった(大津市)

 薄型テレビや携帯電話などの画面の濃淡調整に必要な光学フィルム。製造過程で巻き取る時にできる段差の痕を最大10分の1に抑える発泡ポリエチレン製の芯は、若手社員の創意工夫から誕生した。

 大津市粟津町の長岡産業。営業担当者が大手家電メーカーを相手に商談を繰り広げ、関東や東北など全国を飛び回る。特許を取得し、約5年前から本格販売を始め、現在の販売額は年6千万円まで増えた。売上高15億円の同社にとって不可欠な主力製品に成長した。

 製品企画や研究開発は今でこそ当たり前となったが、赤字経営で独自製品もなかった10年前には考えられなかった。会社が生まれ変わったきっかけは、近江商人が言う「売り手よし、買い手よし、世間よし」の精神を取り入れて2002年から始めた構造改革だった。香川晃一会長(69)は「『三方よし』の理念を示したことで社員が仕事のやりがいを見つけてくれた」と振り返る。翌年には黒字転換し、地域の清掃や募金などの社会貢献活動も続けている。09年には滋賀CSR(企業の社会的責任)経営大賞を受賞した。

 賞は、地元が誇る近江商人の精神を広げるため、06年に滋賀経済同友会が中心となって創設。これまでに大賞6社を含む31社が受賞した。桂賢代表幹事(67)は「近江商人の理念を取り入れた多くの企業はビジネスモデルの転換につなげている」と指摘する。

 近江商人は江戸時代、全国的に活躍した。てんびん棒を担いで各地を回り、特産品などを売り歩いた。百貨店の高島屋や総合商社の伊藤忠、丸紅などが近江商人をルーツに持つ企業として知られる。

 近江商人の旧家が並ぶ近江八幡市の旧市街地にひときわ大きな日本家屋が建つ。古くは戦国時代から続く近江商人、西川家の本家で、現在のあるじである第14代当主西川甚五郎氏は寝具類製造販売、西川産業(東京都)の会長を務める。

 同社は毎春、新入社員を本家に集め、創業からの歴史を教えている。研修では今に伝わる1807年の決算書「勘定目録帳」を見せ、その中に記述がある「世間の皆々様が困るようなことは一切行ってはならない」などの家訓を説明する。

 「西川家は当時からCSRの考え方を取り入れていた。この家訓の精神はまさに『三方よし』で、現代の経営にも通じる」とは例年講師を務める支配人の藤田茂生さん(66)。かつて地域が生み出した理念は風化せず、今も「働く」人々を支えている。=おわり

合理的経営全国で活躍

 近江商人 中世以降、五個荘や八幡、日野、高島などを拠点として全国で活躍した商人。合理的な経営や会計管理、情報収集能力の高さなどが特徴とされる。「三方よし」は研究者の造語で、近江商人の商道徳を象徴的に表現している。

【2011年11月30日掲載】