京都新聞TOP > 文化・文芸・教育アーカイブ > 京都・滋賀 いろいろかたり
インデックス

歌手 倖田來未さん

千本鳥居の情景、今も

 「エロかっこいい」と人気を集めるずっと前のこと。倖田さんが小学校で描いたアジサイの絵がほかの児童の作品と一緒に伏見稲荷大社の千本鳥居に飾られた。雨の日にも訪れ、張り出された自分の絵を見た時の朱色が、倖田さんにとって京都の色だという。
 千本鳥居に入ると、そこは朱一色。きらびやかな通路を歩くと、まるで異世界に連れて行かれそうな不思議な感覚にとらわれる。
 母を通じて人の心を引き付ける歌の魔力を知った少女時代。倖田さんの心にともった炎も同じ色をしているかもしれない。

「京都は四季を身近に感じることができる。離れてみて、なんて素晴らしいところで育ったんだろうって思います」(京都市左京区・ロームシアター京都)
「京都は四季を身近に感じることができる。離れてみて、なんて素晴らしいところで育ったんだろうって思います」(京都市左京区・ロームシアター京都)

 歌手の倖田來未さんは京都市で生まれ育った。幼いころから伝統文化に親しんだ。
 「祖父が尺八、母親が琴の先生だったので3歳から踊りや剣舞を始めました。稽古事が嫌いではないので、自然に伝統文化の世界に触れていました。むしろ楽しかった記憶があります。家には普段から数え切れないほどの花が飾ってあって、お弟子さんがよく練習していました。今から思えば情緒あふれる環境ですね」

 幼いころは伏見稲荷大社が遊び場の一つだった。
 「ずっとあの辺で遊んでました。入り口近くに池があって。そこに亀がいたんですよ。母や友達と帰る途中にいつも寄って、パンをあげました」

 活発な女の子だった。中学時代には男子に混じって野球部で白球を追った。
 「もともとテニス部だったんですけど、運動神経がいいからって先生が勧めてくれて。中学の最後の半年ぐらいは野球部でした。やんちゃな子だったので『やったー』なんて喜んで周りの目を気にすることもなかった。試合にも出たらどうかと先生から言われたんですけど、さすがにそれは恥ずかしくて。チームも結構強かったですし。練習は好きでした。ポジションは覚えてないんですけどノックをよく受けてました。そのころ、(プロ野球広島に在籍する)同級生の赤松(真人)さんとキャッチボールもしました」

 歌手を目指す原点は、人前で歌う母親の輝く姿だった。
 「母の舞台が終わった後にホテルなどで食事会があって、カラオケ大会になったりする。みんなご飯を食べながら歌っている。にぎやかな中で母が歌いだすと、みんなが一斉に手を止めて静かに見つめるんです。それからです。踊りじゃなくて歌いたいって思うようになったのは。あこがれの最初はお母さん。人の手を止めるような歌を歌いたいって。

 小学3年の時には歌のレッスンを受けるために太秦の撮影所内にある養成所にも通いました。行ってみたら演技指導だけでしたが、楽しくて6年生ぐらいまで通いました。映画村のおいらん道中でかむろ役をやらせていただきました。そのころから歌番組などのオーディションを受けるんですけど受からないんです。つらかった。履歴書を送っても1次審査で落とされる。

 高校2年になったら受験の準備があるから、高校1年までに結果が出なかったらあきらめなさいって母親に言われていた。必死になって、高校1年の時にエイベックスと契約が決まったんです」

一度離れ、身に染みる良さ

伏見稲荷大社の千本鳥居。「小学校のころに描いたアジサイの絵が飾られて見に行きました。朱色を見るとあのころの情景が浮かびます」(伏見区)
伏見稲荷大社の千本鳥居。「小学校のころに描いたアジサイの絵が飾られて見に行きました。朱色を見るとあのころの情景が浮かびます」(伏見区)

 18歳。高校を卒業するとすぐに上京した。以来東京暮らし。結婚、出産を経て京都への見方に変化が訪れる。
 「京都にいるころは若いから四条か三条の辺りしか出歩かなかった。行くのはカラオケ店と服屋さんぐらい。でも一度離れてみて、大阪でライブがあるたびに実家に戻ると、京都の良さが身に染みるようになってきた。四季の変化を身近に感じることができて、寺社で歴史の深さに驚く。どんどん、どんどん、京都の良さが分かっていって実家に帰る回数が増えてます。自分の家族もできて、おいしい京都のご飯や美しい景色を旦那さんと子どもにも見せたいから」

 京都市の情報を発信するスマートフォン用アプリ「Hello KYOTO」のPR役であるオフィシャルアンバサダーに任命された。6月には意外にも京都で初めてとなるライブを、完成したばかりのロームシアター京都(左京区)で開く。
 「私は一度にたくさんのことを話すからか、大阪出身ですかって誤解される。その都度『いやっ、京都です』って言ってて。ずっと京都でお仕事がしたいなと思っていたので今回のお話をいただいて本当に光栄。(オフィシャルアンバサダーの)記者会見をさせていただいたロームシアター京都は響きが本当に良さそう。雰囲気も厳かで引き締まる。ライブ当日が楽しみです」

こうだ・くみ

「東京で京都の写真や映像を見かけることも多くて、そんな時は初心を忘れるなって言われている気がして。いつも力をいただいてます」
「東京で京都の写真や映像を見かけることも多くて、そんな時は初心を忘れるなって言われている気がして。いつも力をいただいてます」

 1982年生まれ。2000年デビュー。04年に映画「キューティーハニー」の主題歌のカバーがヒット。翌年、日本レコード大賞を受賞し、NHK紅白歌合戦に初出場を果たした。アルバム「WINTER of LOVE」を今年1月に発売。3月末から全国ツアーが始まり、京都は6月28、29日にロームシアター京都で公演する。

【2016年02月20日掲載】