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(12・完)近鉄吉野線(奈良県)=25・2キロ

杉林の静けさ 感傷にひたる
【写真上】近鉄吉野線の終着・吉野駅のホーム。花見や紅葉のシーズンを見越してホームは広いが、普段は閑散としている(奈良県吉野町)
【写真下】吉野駅

 奈良県橿原(かしはら)市の橿原神宮前駅から吉野町にある吉野駅を結ぶ近鉄吉野線を訪問した。

 近鉄特急で京都駅から橿原神宮前駅までたどり、吉野行きの特急に乗り換えて、終着駅吉野までは都合1時間40分。急行を乗り継いでも2時間少しで着く。吉野線の始終発駅間は直線で約13キロだが、山塊を大きく迂回(うかい)するため、路線距離は倍の25・2キロにもなる。

 飛鳥だとか壺阪山(つぼさかやま)など、なじみの駅名を見ながら、市街地や田畑が混じる沿線を走り、山間を抜け、吉野川を渡って吉野町に入る。

 1時間3便ほどしかない吉野駅には、桜のシーズン用か広々としたホームがある。大きな駅舎を出ると、目に入るのは4軒の土産物店だけ=写真。歩いてすぐのところに「ケーブル」と名のついたロープウエー乗り場があって、3分で山上に開ける町につながる。

 ロープウエーの終点が吉野山駅で、ここから奥千本口までを小型バスが走る。ほとんどの寺社や商店が2キロ以内の範囲に集中しているためか、バスに乗り継ぐ人は少なく、大半は歩いて観光するようだ。

 すぐ近くの世界遺産金峯山寺(きんぷせんじ)で秘仏蔵王権現の開帳中(12月9日まで)とあって、付近は参詣客が多い。

 とりあえず終点までバスに乗った。5分ほどで建物や人の気配が消え、後は延々数キロの狭いつづら坂を登る。うっそうとした杉林ばかりで、見どころの一つもないが、桜や紅葉に包まれて歩く道が別にあるそうだ。奥千本口停からは息を切らせて急坂を数分。静寂の中に世界遺産金峯神社が鎮座している。

 戻りは竹林院前までバスを利用した後、土産物店を冷やかしたり、通り道の寺社を訪ねた。紅葉にはまだ早く、ごく一部の桜やもみじが色づき始めた程度。観光協会で聞くと、見ごろは11月中旬からという。

 近場の盲腸線の一部を紹介したこのシリーズは今回で終わる。全国には約280の盲腸線がある。主な乗客は高校生と高齢者で、昼間は空気を運ぶという、経営の厳しい路線が多いが、地域の足として頑張るけなげな姿に惹(ひ)かれて訪ね歩き、これまで6割強に乗車した。いましばらくはこの旅を続け、終端駅ホームの感傷に浸りたいと思う。=おわり

近鉄吉野線

【2010年10月25日掲載】