京都新聞TOP > Sprout!
インデックス

美術作家 白子勝之氏

なにものでもない形、追究

動き出しそうなライン抽出

「untitled」  インクジェットプリント(漆・ヒノキ・ラン) 2016年  (C)Katsuyuki Shirako
「untitled」  インクジェットプリント(漆・ヒノキ・ラン) 2016年  (C)Katsuyuki Shirako「untitled」  インクジェットプリント(漆・ヒノキ・ラン) 2016年  (C)Katsuyuki Shirako

 艶やかに光る漆黒のオブジェが、紫色に妖しく発色するランの花びらに絡みつく。別の生き物のように肉感的な南国風の花と、蛇を思わせる造形。人工と自然物が暗闇の中で陶然と一体化し、浮かび上がる。官能的で生々しい。このドキドキする質感は何だろう。

 CONNECT(コネクト)は写真のシリーズ。成形した木の造形と生花の位置や重なり、照明の角度を即興的に組み合わせ、最も面白い部分をトリミングして撮影する。「自然物の質感や色は、人間には作れない。それを自分の造形の一部としてつなげたい。立体は、動き出しそうなラインを抽出している」と白子勝之は語る。

 京都市東山区の円山公園内にあるギャラリー「eN arts(エン アーツ)」で個展を開催中だ(8月6日まで 金土日開廊)。新シリーズを含む五つのシリーズを展観する。ヒノキやナラを素材に、造形に合わせて漆や顔料を用いたオブジェ。メッセージ性はない。タイトルもない。白子の造形は名付けようのない、なにものでもない形をしている。

「untitled」  漆・顔料・MDF 2016年  photo:Takeru Koroda  (C)Katsuyuki Shirako
「untitled」  漆・顔料・MDF 2016年  photo:Takeru Koroda  (C)Katsuyuki Shirako

 例えば、SCRIBBLE(スクリブル)シリーズ。電話中、無意識にくるくると円を描いた落書きのような線を1枚の板から立体的に削りだし、別の漆のパーツとつなぎ合わせる。紙上のドローイングが空間に現れ出たような趣だ。ASSEMBLE(アセンブル)は繊細に彫り上げたパーツを規則的に連続させたり、集積させたり、構造の面白みを見せる。SCATTER(スキャッター)は、増殖するコケや雲、泡といった形状で、パーツがばらまかれるようなイメージだ。

 「なんでもないものが作りたい。何かに見えてきたら、アイデアとしては捨てる。何かの形でないから、『何これっ?』って。だから僕自身も説明できない」。意味をまとわない造形は多様なイメージをはらみ、美のみを抽出する。

茶室に置かれた、籐を使った新シリーズと向き合う白子勝之(京都市東山区・eN arts)
茶室に置かれた、籐を使った新シリーズと向き合う白子勝之(京都市東山区・eN arts)

 ◇
 滋賀県出身。プロダクトデザインに憧れ、京都市立芸術大に入学。漆工を学んだ。作りたい造形の素材として最適だったのが漆だった。「漆で何かしたいのではなく、自分が形にしたい何かが漆に合致すればいい」
 シリーズはそれぞれ異なる形態を追究するが、微妙にリンクしたりする。「あっちで見つけたヒントをこっちのシリーズに生かしたり。自分の中で作ったルールで流れを発展させる」。今回発表する新シリーズも、そうした別シリーズからの影響がうかがえる。

 ヒノキを削り出した小さなパーツは、胡粉(ごふん)と膠(にかわ)を重ねては研ぎ、研いでは重ねた透明感のある白色。そのパーツから二股、三股になって約3メートルの漂泊した籐(とう)(ラタン)が宙に伸び、放物線や緩やかな円を描く。会場で即興的に籐をはめ込んで作った。揺らぎ、動き、緊張感、影。「こういうプレーン(簡素)な線は彫れない。壁つけ的な作品が多かったので、立体的にせり出すようなものも開拓していきたい」。コントロールできる形とできない形のせめぎ合いの中で、創意は拡張する。

しらこ・かつゆき

 1984年滋賀県生まれ。2008年、京都市立芸術大美術学部工芸科漆工専攻卒業、10年、同芸術大大学院美術研究科工芸専攻漆工修了。滋賀県在住。

【2017年07月22日掲載】