京都新聞TOP > Sprout!
インデックス

映像作家 端地美鈴さん

描いては消し、身近な日常紡ぐ

手間かけ古い映画のように

 	母校の京都造形芸術大にも近い哲学の道は、よく思索に訪れる場所。端地美鈴(京都市左京区)
母校の京都造形芸術大にも近い哲学の道は、よく思索に訪れる場所。端地美鈴(京都市左京区)

 白い画用紙と鉛筆1本と消しゴム1個。

 端地美鈴のアニメーションは、最小限の単位で作られる。描いては消して、消しては描いて。消しゴムの黒いかすは形になって、鉛筆の線で描かれた町の上を動く。その一連の机上のできごとが早回しになってアニメとなる。2013年、初個展の際に展示した作品「Remember me」は、音楽グループ「くるり」のミュージックビデオでもある。

「Remenber me」(2013年)
「Remenber me」(2013年)

 鉛筆を持った手が画面に現れ、家、町、電線、枕木やレールを描きだす。線路の上を電車が現れて去っていく。消しゴムがそれらの姿を消す。残った黒い消しかすが集合し、塊となって町中の木立のシルエットや電線にとまる鳥の影になり、また風のように散り散りになって飛んでいく。消された町は消しかすとなって、いつの間にか電車内の車掌と女の子の影に。形は次々と現れては消え、また新たな形を作りながら、女の子の成長のストーリーを紡ぎだす。

 暮れゆく町並みを横切る電車、路面に映る車窓の影法師、ブランコに揺れる少女。郷愁を誘う曲調に、鉛筆と消しゴムが生み出すアナログな動きが響き合う。遠く離れた場所であっても ほら近くにいるような景色-そんな歌詞は、端地の世界そのものだ。消えた像は紙にかすかに痕跡を残し、その上にまた新しい形が重なっていく。それは、1枚の紙の上で確かに繰り広げられた「時間」と「存在」。雲散霧消を絶え間なく繰り返す地球上の日常と重なる。「消しかすが新しいものになるのを見て、今が過去になり、過去が今になっているんですね」

「cup and milk」(2016年)
「cup and milk」(2016年)

 手描きのアナログアニメに引かれ、「動くドローイング」で知られるウィリアム・ケントリッジに影響を受けた。消しかすを思いついたのは、「白い紙に鉛筆で書いた文字の上にさらに書いて塗りつぶしたら文字が消える。それは書いているけど消していること。逆に塗りつぶした黒い画面を消しゴムでこすると、文字が書ける。“描く”と“消す”が一緒になっていることに気付いた」。
 
 膨大な作業だった。例えば、電車を動かすのも少しずつずらしながら描いて消してを繰り返す。1分制作するのに60分のテープが必要という。細かいかすは、ピンセットで一つ一つ移動させる。風は大敵。学生時代は夏でも扇風機を使わず、窓も開けずに制作した。「一日が終わったら、お菓子のふたでかすにふたします」。消した跡が残るので、撮り直しはできない。「時間がかかりますね。モノクロの古い映画みたいと言われます」

 銀閣寺近くのギャラリー揺で個展を開催中(12月4日まで 月休)。NTT西日本のウェブCMで現在公開されている作品も並ぶ。まちの自転車屋さんの物語だ。初めてフリップブック(パラパラまんが)も手作りした。「大学卒業後に制作した作品の中のお気に入りシーンを抜き出しました」という。「小さいころ、ファミリーレストランのレジ前にあったおもちゃがほしくて、買ってもらった。一時的に熱中していつか忘れてしまったけど、何か残って覚えている。そんな心に残る作品を作っていきたい」

はしじ・みすず

 1990年、京都市生まれ。2013年京都造形芸術大情報デザイン学科イラストレーションコース卒。同大学卒業制作展学長賞、14年木津川アート市民賞、第18回文化庁メディア芸術祭で「Rememberme」が審査委員会推薦作品に。16年「京都府新鋭選抜展」で「cupandmilk」が産経新聞賞。京都市在住。

【2016年11月26日掲載】