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陶芸家 木野智史氏

つむじ風が吹き抜けた余韻

磁土の弧に永遠の風景

木幡池は、モチーフの原風景だ。「水面がすーっと消えるまで続いていく感じが好きなんです」という木野智史
木幡池は、モチーフの原風景だ。「水面がすーっと消えるまで続いていく感じが好きなんです」という木野智史

 くるっと宙に円を描いた青白磁が、かすかな揺らぎをもたらす。一陣のつむじ風が吹き抜けたような爽やかな余韻を漂わせて。緩やかな曲線のフォルムに沿って、淡い青から白へ色が移ろう。形と色のグラデーションが、空間と時間の中に吸い込まれていく。

 木野智史のシリーズ「颪(おろし)」は、山上から吹き下ろす特有の風、現象が題材だ。目に見えない自然の流れや存在、緊張感を象徴的に表現する。

 ろくろでひいた磁土の円環を切り、螺旋(らせん)や弧、曲線へと成形するという。作品世界を成立させるのは、空間だ。「すーっと消えていくような感覚を伝えたい。そのために、先がシャープでないといけない」。量感のある土の塊は薄く、細く先へ伸びていく。その見えない先端に無限や永遠が宿る。「颪」を中心に空間を構成した昨年のパラミタ陶芸大賞展(三重県・パラミタミュージアム)で大賞に輝いた。

「颪(螺旋)」 兵庫陶芸美術館蔵 撮影:INTERFOTO
「颪(螺旋)」 兵庫陶芸美術館蔵 撮影:INTERFOTO

 宇治の実家近くにある木幡池は、子どものころからなじんだ風景だ。小さな池だから、海や湖ほど波がない。ないだ水面はずっと静かに続いていく。「この池の景色とか、山並みが消えていくまで続く風景が好きで。それは海にも空にもある。そういうものを作りたい」。誰もが体験したことのある風景、どこまでも彼方へ遠く広く連なっていく感覚だ。

 銅駝美術工芸高時代から陶芸に取り組んだ。世界観がしっかりした同級生たちと比べ、自分らしさがないことに悩んだ。大学4年生になったころ、世界観がないなら、自分の中でルールを作ろう、そのルールを深めようと決めた。気に入らない形をそぎ落として好きな形だけに狭めていった先に、あの池のような「すーっと消えていく風景」があった。磁土を選んだのは「土自体が光っていて、薄い表現もできる。石の皮みたいな雰囲気が好きだった」からだ。

「颪」
「颪」

 磁土という素材は難しい。手跡が残りやすい。「形状記憶みたいなので、触りすぎると表面が凹んだり、ボコボコする。円環を反らせると円に戻ろうとする。複雑な形より、なにもしないシンプルなものの方が難しい」。磁器を作る先輩作家に聞き込み、試行錯誤を重ねた。技術は徐々に上がり、頭の中にあった形を少しずつ実現できるようになった。

 表現の領域は、まだ広がる。乾燥させた素地の一端を水に浸してもろくし、崩れるような風合いを生みだす。形と色に加え、テクスチャー(質感)のグラデーションにも挑もうとしている。「茜(あかね)」シリーズは、漆とのコラボレーション。鉢の口縁に漆を施す。青から赤へ移ろう階調の中からのぞく金箔は、夕日を反射した雲の趣だ。

 昨年、台湾に窯を築いた。「日本と中華圏の中継地にあり、ゆくゆくは日本とアジアをベースに発信していきたい。大きい窯が作れたので、大きなものをどんどん作っていきたい。いつになるか分からないけど、陶芸とは違う他の素材でもやってみたい」。足元を固め、見据えるのは、はるか遠く続いていく風景だ。

きの・さとし

 1987年生まれ。京都精華大芸術学部卒業、京都市立芸術大大学院陶磁器科修了。国民文化祭・京都2011美術展「工芸」奨励賞、16年に台湾国際陶芸ビエンナーレ審査員賞。昨年、パラミタ陶芸大賞展で大賞を受賞。今秋、京都で個展を予定している。宇治市在住。

【2018年01月27日掲載】