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(下)中立性への配慮

現実と隔たり、ジレンマ
模擬投票前に各党の主張をまとめる作業。生徒は学生のアドバイスを受けながらマニフェストの内容を書き出した(10日、京都市南区・洛陽工業高)
模擬投票前に各党の主張をまとめる作業。生徒は学生のアドバイスを受けながらマニフェストの内容を書き出した(10日、京都市南区・洛陽工業高)
 憲法9条、集団的自衛権、原発、TPP(環太平洋連携協定)、消費税。各項目について、8党の主張をまとめた模造紙が教室内に掲げられた。それを見ながら生徒約30人が支持する政党に1票を投じる。洛陽工業高(京都市南区)3年の現代社会の授業で行われた模擬投票の光景だ。

 来夏の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられるのを受け、高校での主権者教育が求められている。同校では若者の投票率アップに向け活動している学生団体の協力を得て、初めて模擬投票を企画した。

 授業の中身には神経をとがらせた。当初は新聞記事の使用を考えたが、全紙を扱えないと情報が偏る恐れがあるため断念。京都市教育委員会とも相談して、マニフェストの比較なら問題がないと判断した。投票結果についても、各党の得票数が独り歩きするのを心配し、生徒以外は非公表にした。いずれも、政治的中立性に配慮してのことだ。

 社会科の竹下玄太教諭(31)は「集団的自衛権は安保関連法案が審議中だったので一時は外そうと思った。しかし、それも中立性から問題だと考え、入れることにした」と胸中を明かす。

 主権者教育に取り組む現場では、政治との間合いを測りかねている。山口県では7月、新聞2紙を使うなどして安保関連法案について討論し、模擬投票をした県立高の授業が県議会で問題となり、教育長が謝罪する事態になった。自民党は政治的中立を逸脱した公立高教員に罰則を科す法改正を提言し、対象を私立まで広げる動きも見せる。

 <げんき倍夫 全学校で和食中心の「給食」を導入‼>。7月、府立高で初めて模擬投票の授業を実施した鳥羽高(南区)。架空の市長選を設定したものの、争点は現実の政治とかけ離れた内容だった。「実際の課題を取り上げるには生徒が十分に理解する必要があり今回はできなかった」と担当教員は説明する。政治的中立性に過敏になるあまり、現実の政治に踏み込めないジレンマ。「結局、中身のない授業になってしまわないか」と、高校の教員からは疑問の声も上がる。

 「私学は各校に独自の信念がある。こんな時勢だからこそ腹を据えて取り組まないといけない」。そう語るのは、平安女学院中・高(上京区)の今井千和世副校長(62)だ。10日の授業で高校3年生約50人が8月30日に東京の国会前であった安保関連法案に反対するデモの映像を見て次々に発言した。

 「同じ年齢の人がきちんと政治に意見を持っていてすごい」「思うだけでなく行動に移さなくては…」。ストレートな意見が相次いだ。

 同校では本年度、安保関連法案や戦後70年を伝える新聞各紙の読み比べや討論を重ねる。未来を担う高校生に、国会で議論される問題に向き合ってもらいたいとの思いがあるからだ。

 ただ、少子化で経営環境が悪化する私学にとって国の助成金は何物にも替え難い。そこに政治的中立をめぐる締め付けが忍び寄る。「弱みにつけ込まれ、萎縮してしまわないか」。今井副校長は表情を曇らせた。

政治的中立性

 教育基本法8条は「法律に定める学校は特定の政党を支持し、または反対するための政治教育や政治的活動をしてはならない」などと定める。一方、校内外での政治的活動が禁じられていた生徒については「18歳選挙権」を受け、文部科学省が校外では一定の条件下で容認する方向で検討している。

【2015年09月30日掲載】