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[10]医療を支える情報技術

立命館大情報理工学部教授  陳延偉氏
AIを利用した肝腫瘍の類症例検索システム(中国浙江大学との共同研究成果)
AIを利用した肝腫瘍の類症例検索システム(中国浙江大学との共同研究成果)

 医療・健康は人々にとって最も関心のある分野の一つです。医療は科学技術の発展とともに日々進化しています。19世紀末の1895年にレントゲン博士がエックス線を発見し、人間が初めて体内部を可視化することができました。1972年にハウンズフィールド博士がエックス線CT装置を開発し、人体内部を三次元的に観測することができるようになりました。情報化時代になると、既存の医療サービスも大きく変化しました。電子カルテや遠隔データの共有など情報技術を基盤とした医療・健康情報管理サービスがすでに始まっています。さらにCTや超音波画像などをナビゲーションにして、ロボットで遠隔からの操作で手術や治療などを行うことが可能になっています。

 近年、情報技術として人工知能(AI)などの技術革新が著しく、大変注目されています。AI技術がどのように医療・健康分野に活用されているのでしょうか? 著者はいくつかの実例を使って紹介していきます。

診断の精度と自信度共に向上

 AIとは、機械が人間と同じような認識・探索・予測などの機能を持ち、知的に振る舞うことを言います。特に近年コンピューター性能の著しい進化と大量の学習データが入手可能になったことで、AI自身が知識を獲得する機械学習が実用化され、第3次人工知能ブームとなりました。記憶に新しいですが、グーグル社が開発した人工知能アルファー碁が囲碁の世界チャンピオンに勝利したり、AIを利用した自動運転などが話題になっています。医療分野においても、人工知能技術が力を発揮しています。ここで三つの応用例を紹介します。

(右)AI技術を用いてCT画像から肝臓とその脈管分布を抽出し、可視化した結果 (左)バーチャルリアリティ技術と組み合わせた肝臓手術シミュレータ(関西医科大学との共同研究成果)
(右)AI技術を用いてCT画像から肝臓とその脈管分布を抽出し、可視化した結果
(左)バーチャルリアリティ技術と組み合わせた肝臓手術シミュレータ(関西医科大学との共同研究成果)

 一つ目は遺伝子解析です。2016年8月に東京大学医科学研究所がIBMの人工知能「ワトソン」を使用して、わずか10分で難病(急性骨髄性白血病)を診断し、患者の命を救いました。患者の症状を学習した2000万件の症例論文と照合し、難症例の病名を特定し、医師に治療方針を指南したそうです。

 二つ目は自動問診補助システムです。2017年1月に英国国民保険サービス(NHS)は、バビロンヘルス社が開発した自動的に問診を補助するためのAIチャットボット「症状チェッカー」の試験を始めました。人々が携帯アプリやインターネットなどを通していつでもどこでも病気の症状について尋ねることができ、病気や緊急度、行くべき診療科などのアドバイスを受けられます。医師や看護師が対応するよりも素早く、正確だそうです。

 三つ目の応用例は画像診断支援です。AIの医療応用において最も進んでいる分野です。複数医師によって品質が保証された診断結果のある医療画像を用いて最新の学習モデル(深層学習ネットワーク)を訓練します。学習したモデルに新しい医療画像(CT画像など)を入力すると、素早く病巣を見つけたり、病巣の悪性・良性を鑑別することができます。国立がん研究センターとNECが共同でAI内視鏡を開発した。5千症例の内視鏡画像を用いてAIモデルを訓練し、98%の確率でポリープや早期がんを発見できました。現在画像認識分野において、すでに人工知能(深層学習)技術は人間を超える画像認識率を達成しています。近い将来、放射線診断医師を超えるAI画像診断支援システムが実現されるでしょう。

 本研究室は2016年に中国トップクラスの浙江大学と共同でAIを用いたCT画像に基づく類似肝腫瘍性病変症例検索システムを開発しました。このシステムでは既存の類似症例に対する診断結果や治療結果の参照・共有を行うことができ、診断精度を向上させることができます。放射線科医に使用してもらった結果、使用しない場合に比べ、診断精度と診断の自信度が共に向上していることがわかりました。特に経験の浅い医師に有効であることが確認できました。

 以上の例でわかるように、人工知能は医療分野においても大きな力を発揮しています。今後、補助ツールとしての情報技術(人工知能を含む)がますます進化していくと思われ、より良い医療サービスにつながっていくものと期待されます。

チン・エンイ

 1962年中国生まれ。90年大阪大大学院工学研究科博士後期課程修了。専門は画像認識と医用画像解析。レーザー技術総合研究所、琉球大を経て2004年4月に立命館大教授。14年から同大学先端ICTメディカル・ヘルスケアセンター長。15年から連続3年間医療と健康イノベーションに関する国際学会の大会長を務めている。

【2018年01月10日掲載】