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[8]モノを通信でつなげる

立命館大情報理工学部教授 西尾信彦氏
自動運転プロジェクトAutowareでは、認識した道路状況を近隣の自動車と共有する「ダイナミックマップ」の実現を目指します
自動運転プロジェクトAutowareでは、認識した道路状況を近隣の自動車と共有する「ダイナミックマップ」の実現を目指します

 私たちは家庭内でハンドソープが切れたら買い足しにいきますが、もしハンドソープが自分でなくなりそうなのを悟って勝手にアマゾンに注文していたらどうでしょうか。現実にこれが起きるとしたら、ハンドソープが洗剤の残りを把握して(センサー)、いつなくなるかを予測して(情報処理)、インターネットのサービスを利用する(情報通信)ことになります。近年、IoT(モノのインターネット)というコトバを聞きますが、これは1980年代からの情報通信技術の集大成といえるものです。集積回路技術、無線通信技術、バッテリー技術の進化による小型通信端末の普及、その場で何が起きているかを認識するセンサー技術の高度化、電子タグによるモノをデジタル処理する技術の普及、大量のデータを処理できるクラウドコンピューティングの浸透にともない、先の例もかなり現実に近づいてきました。

 当初、これらの技術が「ユビキタス」と呼ばれていた頃にはユーザーの日常生活に利便性や快適性を与えることが目的とされていました。しかし、人々がスマートフォンを持ち歩くようになり、生活環境に多くのネットワークにつながったモノが出現してくると、生活のさまざまな局面で常に大量のデータが発生するようになりました。これらのヒトやモノ、コトにひもづいた大量のデータがいわゆるビッグデータとして流通し、IoTではそれをデータサイエンスや機械学習技術によって分析し、新たな経済価値を創出することを目指しています。先のハンドソープの例では、どの時期に、どのような人が、どの程度ハンドソープを消費するかという生の消費行動を把握できる可能性があるのです。ドイツではジーメンス社、SAP社、ボッシュ社によるインダストリー4・0(第4次産業革命)や、米国ではゼネラル・エレクトリック社が自社製品にセンサーをつけその稼働状態を分析するインダストリアル・インターネットといった掛け声がIoTを代表する流れとなっていきました。

「現場」で何が、を知り「知性」を育む

梅田に来たユーザーがどのように「うめちかナビ」アプリを使っているかは、まちづくり・防災のための貴重な情報源です
梅田に来たユーザーがどのように「うめちかナビ」アプリを使っているかは、まちづくり・防災のための貴重な情報源です

 筆者の研究室では大阪・梅田の地下街でのバリアフリーナビ「うめちかナビ」アプリを開発提供しています。アプリから得られる、梅田に来たヒトがどのようにナビを使っているか、どこで迷っているかというデータもまちづくり、防災のために貴重な情報源となっています。また、自動運転のオープンソースプロジェクトAutowareでは、自動車が「センサー」となって周囲の道路状況を近隣の自動車と共有する「ダイナミックマップ」の実現を目指しています。

 IoTは実世界で起きている情報がネットワークを通じてクラウドに集積されます。クラウドでのビッグデータ解析は同時に「AI」と呼んでいいサービスの実現に一役買うことができます。AIがIoTと対になって紹介されるのはそのためです。今後、家庭内に入ってくるであろうグーグルホームやアマゾンエコーなどのスマートスピーカーも「知性」はネットの向う側にいて、それでも「現場」で何が起きているかに注目しているのです。実世界で何が起きていて、ヒトがどのように行動しているかは常に貴重で有用な情報である一方、センシティブな情報でもあります。個々のヒトのプライバシーは保護しつつ、「全体」の傾向は的確に、かつ即時に把握しておきたいIoTではセキュリティーをどのように担保するかが常に忘れてはならない重要な課題です。

にしお・のぶひこ

 1962年愛知県生れ。東京大大学院理学系研究科情報科学専攻修了。専門はユビキタスコンピューティング。慶応義塾大SFC環境情報研究所助教授を経て、2005年より立命館大情報理工学部教授。07~08年、米グーグル社客員研究員。

【2017年11月08日掲載】