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(242・完)三十石(京都市伏見区)

船旅気分味わって
三十石舟や十石舟が運航する伏見港の宇治川派流(京都市伏見区)
 東京−大阪間のJR寝台急行「銀河」が今月十四日、引退した。新幹線や深夜バスに押され、また一つ旅の情緒が消えた。でも、落語の世界はのんびり旅こそが話(ネタ)の始まり。「三十石」は、京の伏見と大阪の八軒家を結んでいた三十石舟を題材にした上方落語の代表的な旅ネタだ。
 もとは「東の旅」という大きな旅シリーズで展開されていた。主な登場人物は喜六と清八。伊勢参りに出掛け、変わった煮売り屋で休息する「東の旅発端」から始まる。キツネの恨みを買い、何度も化かされる「七度狐(きつね)」や、「軽業」「こぶ弁慶」など落語ファンにはおなじみのネタが続く。
 「三十石」は、伊勢参りの最終部、京から大坂の帰路を描いている。船宿・寺田屋の浜から夜舟に乗り込むと船中はいっぱい。いよいよ船出という時、美人が乗ると思い込んだ男の客の妄想や、船中のドタバタなどが続く。ドラの鳴り物が入った舟歌もあり、にぎやかな話になっている。
 大阪では、明治初期に初代桂文枝が前座噺(ばなし)を大ネタに仕上げた。その後は、五代目笑福亭松鶴や六代目松鶴、桂米朝らも得意としていた。
 伏見港は戦国時代、豊臣秀吉が伏見城を築いた際に河川港として開いた。最盛期の江戸時代末期は三十石舟などが頻繁に京と大坂を往来した。しかし、鉄道と陸運の発達で廃れた。時代の波に勝てず一九六三年から船の行き交いはなくなった。
 使われなくなった川は荒れ果てたが、八九年から伏見観光協会専務理事の永山惠一郎さん(51)が清掃を始めたのを機に再生の道を歩み始める。八八年から伏見みなと公園として整備され、今は観光や住民の憩いのスポットになった。十石舟や三十石舟も復活した。
 水辺にはヤナギやアジサイが植樹されている。春には百四十本のサクラが満開の花を咲かせる。永山さんは「まちには眠っている資産がいっぱいある。それが伏見の奥深さ。次世代の子どもたちに伝承し郷土愛を育てていきたい」と話す。
 折しも落語ブーム。スピード社会をしばし忘れて三十石舟に乗り込み、喜六、清八が体験した船旅の気分を味わってみるのも楽しいだろう。=おわり
【メモ】2008年度は十石舟が4月1日から、三十石舟が同5日から運航を始める。35―55分で伏見のまちを流れる宇治川派流を巡る。乗船場へは京阪中書島駅から徒歩5―10分。料金はいずれも大人(中学生以上)1000円。問い合わせは、地元のまちづくり会社・伏見夢工房TEL075(623)1030。

【2008年3月28日掲載】

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