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小泉凡氏 ハーンの怪談、まちに生命力

小泉凡氏 こいずみ・ぼん 1961年生まれ。ラフカディオ・ハーンのひ孫。民俗学。島根県立大短大部教授、焼津小泉八雲記念館名誉館長。著書に「怪談四代記 八雲のいたずら」(集英社文庫)。


 『怪談』の著者として知られる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。
 彼は超自然をテーマとする物語に魂を吹き込む再話文学の創作に心血を注いだが、同時に五感を研ぎ澄ませた観察に基づく、その土地の印象記の創作を得意とした作家だった。
 京都も題材の対象になり、紀行文に「旅日記から」「京都紀行」などがある。「西日本で一番興味深い都市」「どこよりも京都に住みたい」「ささやかな職でも京都に得られたら」などと友人に認(したた)めている。大阪についても「賢明な保守主義」と、高く評価し、伝統文化が息づく関西地方に大変好感を抱いていた。
 八雲の書誌を作ったP・D・パーキンズは、松江を「これほど完全な旅行ガイドブックを持った地方は世界に稀(まれ)であろう」と指摘した。八雲の来日第一作で、山陰地方の基層文化を描出した『知られぬ日本の面影』(1894年)の紀行文としての役割をたたえた言葉だ。
 そしてこの著作に散りばめられた松江城下の怪談を地域資源として生かす試みが2008年から始まっている。夜の松江をプロの語り部の話を聞きながら2時間かけて徒歩で巡る「松江ゴーストツアー」である。
 すでにオンシーズンの土曜を中心に291回、延べ4797人がツアーを楽しんだ(17年2月末現在)。
 この成功が彦根や焼津でも同様のゴーストツアーなどを生むきっかけとなり、松江には「怪談のまち」という新しい顔が創出された。
 ギリシャ人の八雲愛読者タキス・エフスタシウ氏の提案で、八雲の精神性の根幹にある「開かれた精神(オープン・マインド)」を現代アートで表現し普及する「オープン・マインド・オブ・ラフカディオ・ハーン」プロジェクトも09年から始まっている。アテネ、松江、ニューヨーク、ニューオーリンズなどおもにゆかりの地で開催されてきた。
 15年には、八雲が愛した祖国アイルランド南部の町トラモアに八雲の生涯を九つの庭で表す「小泉八雲庭園」がオープンし、新しい地域資源となった。なお、今年はアイルランド-日本の外交関係樹立60周年。京都の狂言師・茂山千五郎家による初の八雲作品のアイルランド公演も、計画されている。
 昨年夏には、32年ぶりに松江の小泉八雲記念館の展示構成を拡充・一新。八雲の多面性と「オープン・マインド」を感じていただけるよう、展示や映像で工夫を凝らした。
 これからは文学鑑賞、研究、顕彰活動の蓄積を糧に、作家や文学を地域資源として生かす社会的実践が注目されるだろう。

(小泉八雲記念館館長)

[京都新聞 2017年03月24日掲載]