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(下)世界遺産への道

多彩な価値発信、うねり
ニゴロフナやホンモロコを使った料理をふるまう嶽山さん。琵琶湖八珍は人気メニューだ(大津市末広町・honobono)
ニゴロフナやホンモロコを使った料理をふるまう嶽山さん。琵琶湖八珍は人気メニューだ(大津市末広町・honobono)
日光を受けてきらめく琵琶湖(長浜市・さざなみ街道より南を望む)
日光を受けてきらめく琵琶湖(長浜市・さざなみ街道より南を望む)

 口にすると絶妙なバランスの苦みと酸味が広がった。琵琶湖の固有種ホンモロコのなれずし。大津市の料理店の湖魚料理「琵琶湖八珍」の人気メニューだ。

 マスターの嶽山守さん(46)が自前で漬けて2年前から出している。口コミで評判になり、お茶漬けを頼む人も。「琵琶湖の魚のおいしさを知らない人もまだ多い。魅力を伝えたい」

 琵琶湖八珍はモロコやビワマスなど8種の魚介を選び、湖国ならではの食文化をPRする取り組み。安土城考古博物館で副館長を務めた大沼芳幸さん(61)が発案し、県がブランド化を目指す。現在、賛同する飲食店は10店超。大沼さんは「食文化など琵琶湖の多彩な価値を発信することが重要」と強調し、その先に世界遺産登録を描く。

 「琵琶湖を世界遺産に」という声は過去何度も上がった。1996年に稲葉稔知事(故人)が登録を目指す意向を示し、2008年には嘉田由紀子知事(当時)も同様の意思表明をした経緯がある。しかし、湖岸の開発が進み自然遺産としては難しい。文化遺産としても、前提となる文化財保護法などの国内法に基づく保護が竹生島など一部にとどまる。いずれもハードルが高く、機運はしぼんだ。

 だが今年、琵琶湖への注目度を高めるチャンスが訪れた。4月に文化庁の「日本遺産」第1号に認定され、9月には国民的資産と位置づける「琵琶湖保全再生法」が成立。湖国の学識者や経済人でつくる文化・経済フォーラム滋賀は「日本遺産から世界遺産へ、登録の戦略を検討すべき」との提言を発表した。

 もっとも現状では、国内候補地のリスト入りも締め切られ、道のりは険しい。同フォーラム代表幹事の木村至宏成安造形大名誉教授は「琵琶湖の価値は見てすぐ分かるものではなく、解説やガイドが必要。発信し続け、県民に大きなうねりが起きれば、状況が好転する可能性はある」と期待する。

 琵琶湖は60種超の固有種がいる豊かな生態系があり、多彩な漁法、奥深い食文化を育んだ。松尾芭蕉が晩年の一時期を過ごし多くの句を残すなど、芸術の対象としても愛されてきた。嘉田前知事は「大自然に囲まれたほかの古代湖と異なり、琵琶湖は開けた土地にあり暮らしと結びついてきた。世界でも類を見ない価値がある」と語る。

 県が08年に始めた「近江水の宝」事業は、民俗や信仰など新たな視点から琵琶湖に光を当てた。前面に打ち出した「水と人の営み」のストーリーは日本遺産のコンセプトにもつながった。

 世界遺産は貴重な自然や文化を将来に残していくための枠組みだ。大沼さんは「人と自然の共生を模索してきた琵琶湖の歴史と文化は、未来に生きる人たちへ極めて強いメッセージ性を持っている。そこに一番の価値がある」と強調する。=連載「琵琶湖遠近」おわり

【2015年12月20日掲載】