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裁判員制度5年 定着へ継続的な検証を

滋賀本社 田中俊太郎

裁判員裁判が開かれる大津地裁の刑事法廷。司法への市民参加を進めるためには制度の継続的な検証が欠かせない(大津市京町3丁目)

 市民が刑事裁判に参加する裁判員制度の開始から今年で5年が経過し、5月に滋賀版で制度の課題などを探る連載「定着への道」を担当した。市民と司法の距離は縮まったか。その答えを探すための取材で感じたのは、法曹界や裁判員経験者と市民の認識の差だ。法曹関係者は制度定着に自信を見せるが、一般の関心は低い。本来の趣旨である司法への市民参加が実現するための道はまだ長い。

 「人生でもなかなか味わえない経験だった」。昨年大津地裁で審理された強制わいせつ致傷事件で裁判員を務めた大津市の男性(71)は、その時の経験を熱っぽく語った。高齢を理由に辞退もできたが、「数日間の拘束よりも、一度やってみたいという欲の方が強かった」。プロの裁判官の訴訟指揮を間近に見て感心した。評議では積極的に発言し、充実感を漂わせた。

 大津地裁では裁判員裁判の判決後、裁判員の会見が開かれる。感想を尋ねると否定的な意見は少なく、ほとんどが肯定的な答えが返ってくる。裁判所、検察、弁護士の法曹三者がわかりやすい審理を意識してきた成果もあってか、最高裁による裁判員経験者のアンケートでも9割以上が「いい経験」と答えた。

 確かに裁判員制度の周知は進んだ。最高裁が今年3月に公表した2013年度の国民の意識調査では、回答者の95%以上が、市民が刑事裁判に参加するという制度の趣旨を理解していた。

 裁判報道に携わる身としても、事件の大小を問わず裁判員裁判を報道していた当初に比べ、最近は殺人など社会的な反響の大きい事件が中心だ。逆に言えばそれだけ裁判員裁判は特別ではなくなった。

 ただ、本当に裁判員制度は根付いたか。最高裁の意識調査では裁判員経験者の高い満足度に対し、未経験者が裁判員裁判に「参加したい」などと答えたのは14%にとどまった。裁判員制度に対する経験者の満足度と未経験の市民のイメージのギャップは大きい。

 市民の参加意欲が高まらない原因の一つに裁判員の精神的負担や時間的制約がある。7月の裁判員法改正要綱では、年単位の長期審理は裁判員の対象外としたが、当初から問題視されてきた守秘義務の緩和は見送られた。市民の負担軽減のための模索は続く。

 各地で裁判員裁判を傍聴する大阪市の市民団体「裁判員ACT」代表の川畑恵子さん(52)は「慣れ」を指摘する。「広報強化の動きもあるが、開始当初に比べ、法曹三者による説明会や啓発が少なくなった。大阪では裁判員の記者会見も少なく、声が語られる機会がない」と話す。

 法曹界が裁判員経験者からの高い評価に満足し、これから裁判員となる市民と司法との距離が遠くなってしまっては本末転倒だ。「慣れ」と「定着」は違う。裁判員裁判をより良い制度にするには、継続的な検証が欠かせない。

[京都新聞 2014年9月17日掲載]

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