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無痛分娩事故 医療過誤、再発防ぐ制度を

報道部 片村有宏
記者会見する(左から)リュボビさん、みゆきちゃん、エレナさん、夫=7月29日、京都市中京区
記者会見するみゆきちゃん(左端から2人目)家族=7月29日、京都市中京区

 出産時の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)が近年広まる中、関西で母子が重度の障害を負う事故が相次いで発覚した。京田辺市の産婦人科医院では3件あり、大阪では妊婦が亡くなった。厚生労働省の研究班は23日に初会合を開き、安全対策の議論を始めた。待ち望んだ日々を一転させる悲劇を繰り返してはならない。

 7月末、無痛分娩で脳障害を負った京都市左京区の母子ら家族が記者会見した。ロシア出身のエブセエバ・エレナさん(40)と長女みゆきちゃん(4)は体がほぼ動かせず意思疎通が困難。リクライニング型車いすの2人を気遣いながら、夫(55)らは「原因をきちんと分析して二度と起こらないように」と訴えた。

 エレナさんは2012年11月、京田辺市の医院で無痛分娩のための硬膜外麻酔を受けた。直後に容体が急変し、一命を取り留めたが搬送先で生まれた長女とともに脳障害を負った。長期入院後の在宅生活は、夫とエレナさんの母が24時間態勢の介護で支える。毎日午前5時半から翌日午前3時まで分刻みで、会見中も血中酸素濃度の低下や、たんの吸引の必要性を知らせるアラームが何度も鳴った。

 家族そろっての外出は2回目。「外出は命に関わる。リスクを負ってでも4人で伝えたかった」と夫は振り返る。何よりも「家族のありのままの姿を見てほしい」という強い思いがあった。夫らは昨年末、医院に損害賠償などを求めて民事訴訟を起こし、24日には、時効が約2カ月先に迫る中、業務上過失致傷容疑での刑事告訴に踏み切った。

 無痛分娩実施率は昨年度で約6%、過去10年で倍増した。日本の産科事情を踏まえ安全な体制を整える必要がある。

 司法担当として無痛分娩に限らず医療事故を取材し歯がゆさを感じるのは、当事者が訴え出ねば声は届かず、重い負担と勇気を強いられる現状だ。仕事を抱え家族で24時間の介護を担い、訴状を準備する時間を捻出せねばならない。日々の介護に追われ、声をあげることもかなわぬ当事者たちも潜在的にいるだろう。

 事故の再発防止にも課題を抱える。進められている。今後は店舗の垣根を越えた協力などで取り組みをさらに強めるべきだろう。

 出産時の医療事故を補償する「産科医療補償制度」は今回の原因を、麻酔のカテーテルが硬膜を破ったことと、麻酔薬の過剰投与が原因と結論付けた。同医院で11年と16年に発生した2件の事故も原因分析と再発防止を掲げた同制度の対象だったが、教訓は生かされなかった。2015年に第三者機関への届け出や院内調査を義務化した医療事故調査制度がスタートしたが課題は多く、医療過誤訴訟は提起され続けている。

 医療事故の訴えは当事者のみならず、同様の問題を抱える人や未来の患者への思いが背後にある。それぞれに真摯(しんし)に向き合い、再発を防げるか、医療制度が問われている。

[京都新聞 2017年8月30日掲載]

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