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姉川氾濫 「切り通し」の教訓、共有を

長浜支局 山木秀二
姉川氾濫の主な原因になった左岸堤防の「切り通し」(長浜市大井町)
姉川氾濫の主な原因になった左岸堤防の「切り通し」(長浜市大井町)

 8月の台風5号による長浜市の姉川氾濫から1カ月が過ぎた。堤防の一部を切り落とした左岸の同市大井町にある「切り通し」から水があふれたことが主な原因だった。堤防を含めた河川管理者の滋賀県、水防責任者の長浜市、切り通しをふさぐ作業を担う大井町自治会の3者は、それぞれの立場や役割を重視するあまり、切り通しの危険性を認識していたにもかかわらず、十分な議論をしてこなかった。いわば「三すくみ」に似た構図の中で問題が結果として先送りされ、氾濫を招く一因となった経緯が浮かび上がる。

 切り通し(幅約6メートル、深さ約3・5メートル)は、自転車や歩行者の通行の利便性を確保するため、路面が姉川両岸の堤防より低い旧大井橋(同町)の両端に設けられている。増水時は木製の板や土のうでふさぐが、今回は左岸側がふさがれず氾濫につながった。

 県は、1993年に旧大井橋の下流約100メートルに新大井橋が完成した際、いったん切り通し廃止を検討した。しかし、地元住民の要望を受け入れる形で廃止を断念、増水時に切り通しをふさぐ作業を同町自治会に委ねた。その後も県は廃止に向け住民同意を取り付けようと条件整備に努めたが、廃止に至らなかった。

 地元はどうだったか。住民らが日常的に切り通しを利用する一方で、増水時の危険性を指摘する声も高まっていた。同町自治会の饗場富蔵会長は「2012年の総会で、全会一致で廃止すべきという結論になった」と話す。

 しかし、県長浜土木事務所によると、自治会が県に対して廃止を要望した文書は残っていない。同年11月の自治会総会の議事録は残るが、廃止と存続の要望が併記されているのみという。河川砂防課の藤本義輝課長は「議事録では廃止の結論に至っておらず、地元総意の文書として受け止めることはできなかった」と語る。

 一方、市は、水防を担う立場から増水のたびに職員を大井町に派遣して切り通しをふさぐ作業を手伝ってきた。また、県に対しては姉川や高時川の氾濫に備えて河川整備を急ぐよう長年要望していた。ただ、切り通しの廃止については「堤防管理者の県と住民が協議する内容であり、市が県や住民と話し合ったことはない」(横尾仁防災危機管理局副局長)との姿勢を崩さない。

 風水害の防災に詳しい岐阜大流域圏科学研究センターの小山真紀准教授(地域防災学)は「地域で災害の恐れがあると指摘されながら、実際に発生するまで問題が先送りされた事例は少なくない」とした上で、「行政と住民が日ごろから、災害時に情報を共有して適切な判断ができるよう訓練を重ねることが必要だ」と指摘する。

 氾濫を受け、県は自治会や市との協議を経て16日に切り通しの仮閉鎖工事を行う。長年の課題は解決に向けて動き出すが、姉川氾濫以降に県が実施した調査によると、堤防を切り落とした河川は県内に他にも複数あるという。切り通しを教訓に、災害について関係者が情報や意識を共有することが求められる。

[京都新聞 2017年9月13日掲載]

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